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2014年3月14日金曜日

『シュレ猫』 郡山公演顛末記


★3.8郡山公演

郡山青少年会館で行われた公演は、時折、吹雪いたり晴れ間が出たりという、大変な天候のもと、たくさんの方々に来ていただきました。
午後1時半と5時開演の二度の公演に、合わせて250人位の観客がおいでになったと思います。

この公演は一般のお客さん向けに、福島県内で初めて行われたものでした。
ウシトラ旅団は、どうしても、浜通りから原発事故により避難してきた人と、その町の人々といっしょに観てほしいと思ってきました。

「成功させる会・郡山」には、地元で演劇活動をやっている人たちや、浜通りからの避難者の支援をやっているボランティアの人たちが参加していました。
中でも富岡町(郡山に役場をおいている)に関わる人たちが大きな力になってくれました。

表には現れてこない演劇部スタッフたちも実は素晴らしい子たちです。
公演の意味をよく考え自分たちの仕事に全力!


ウシトラ旅団の活動は富岡町の人々との関係が深く、「シュレ猫」がまた、富岡町から避難した坂本幸さんが大沼高校に転校したことがきっかけで出来た劇。
ありがたいというか、うれしい偶然というか、人のつながりの妙を感じます。

また、クラウドファンディングで応援してくれた人たち、会場で「これからの活動に!」とカンパをしてくださった方々、本当にありがとうございました。

★また一段と、うまくなっていた生徒たち

キャストは昨年8月の下北沢と少し違っていました。
数人の三年生が引退し(というより、掟破りに「どうしてもやりたい!」と数人の三年生がまだ演じている)、そこを一年生が埋めているのですが、いやいや新鮮にして見事に演じます。
三年生や二年生は一皮もふた皮もむけた演技でした。

劇中には笑いを取る場面がけっこうあるのですが、そこを実に軽々とやってのける。凄い。
これがあるからラストの緊張感と感動に観客はやられてしまいます。

克哉を演じる佐瀬くんに、観客の反応は見えてる? と聞いたら
「はい。ひしひしと感じます。舞台にもすすり泣きが聞こえてくるんです」とのこと。
彼はもう一年、高校で勉強して、そして消防士になる大学へ進むそうです。
「震災のことがあって、これなら人の役に立つ仕事ができるかなと思って……」と語ります。

人はどんなふうに励まされ、勇気を湧き上がらせるか。
教えられることの多い感動的なラストシーン。


二年生はもちろん三年生と演技をともにしながら育ってきました。
その彼を劇中では「克哉君、かっこいい!」と言いながら、ふだんは鼻面引き回しているようにみえる(笑)、斎藤さんが、「あんたがいちばん泣いてたもんねぇ」と言ったことがありました。
富岡町から避難してきた坂本さん(彼らより二年先輩)が、自分の体験を話してくれた時のことでした。

彼らはこうして互いをみて育ち、演劇に打ち込んできました。
すばらしい感性と、心が備わっていかないわけがないのです。

★彼らはまた新しい出会いをした

賛助公演の『富岡の空へ』は、わたし達が通っているいわき市の泉玉露仮設住宅にいらした佐藤紫華子さんの詩をもとに創られた朗読劇でした。
今回はそこに、いま郡山で一人で暮らすという吉野明日香さんが自作の詩で参加していました。
事故後やはり何度も引っ越しを重ね、岐阜で母と暮らしていたそうですが、その母を病気でなくしたのだそうです。
これも不思議な縁ですが、吉野さんは坂本幸さんと同じ中学校に通っていて、よく知っていたのです。そんなことを知らずに、ゲネプロ(本番同様の練習)での彼女の詩の朗読に、大沼の女優陣は目頭をそっと拭っていました。

泣かせた娘と、涙を拭っていた女優のタマゴ


そしてまたまた実は……、吉野さんは郡山市の富田仮設住宅敷地内にある「おだがいさまFMラジオ局(富岡臨時災害FM局)」のパーソナリティをやっていて、すべての演技が終わった後、大沼の生徒たちの前にインタビュアーとして登場したのでありました。
前日、そこに伺い、三年生三人が前宣伝をかねて、お世話になったばかりでした。

大沼の生徒は、避難者がたくさん聞いている災害FMで、演じる前の気持ちと、これからの心構えを伝えることができたのです。



前日の三年生は、その後、三春町寄りにある緑が丘仮設住宅へ向かいました。
ここで、いま避難者が直面している課題を、自治会長さんにじっくり聞いたのです。
北崎自治会長は、いつもの笑顔を交えながら、それでもけっこう深刻な実態を隠さずかたってくれました。人の生き死にの話もあり、高校生にはショックだったかもしれませんが、きっとこれは彼らに財産になると思います。
むろん、自治会長は、翌日の公演に仮設の仲間を引き連れて来てくださいました。

★避難者と市民と自分たちを結ぶ

終演後に見送りに立つ生徒たちに、観客が声をかけていく情景は感動的でした。
声をかけずにいられないというふうに、握手をしたり抱きついたり。
数多くのアンケートにはびっしりと書き込みがありました。
東京・下北沢のときと違うのは、そこに書かれている内容がよりリアルで切実なものが多い、ということでしょうか。

受付のところまで来て話していった大熊町の女性がいました。
彼女はこう言って帰ったのです。
「避難先の人たちとの関係にずっと悩み苦しんできました。今日の演劇で、その解決の糸口が見えてきたように思います」。
彼女は涙を流しながらそう言って帰りました。

佐藤先生にその話をすると彼は「そんなつもりじゃなかったんですが……」と、やはり涙ぐんできたそうです。『シュレ猫』は被災者やそれを取り巻く人たちとの関係のなかで育っていく演劇なのでしょう。




生徒のほうも、この演劇が持つ意味をひしひしと感じていたようです。
会津へ送るバスの中で、今回の公演の感想をひとりずつ聞いてみたら、そのことに関わる話が多く出てきました。
素晴らしいサポートをやり、しっかりした意見を述べたスタッフ役も含めて、大沼高校のみんなの感想を紹介したいのですが、涙をのんでいくつかを拾わせてもらいます。

「今回はこれまでと違っていました。ぼくの役はどちらかといえばクールというかネガティブな台詞が多いので自分の心の中と違うのに、傷つけてしまうのではないかと心配してました。でも、最後の反応がすごかったので、ちゃんと伝わったんだなと思いました」(康介役・片桐くん)

「若松より仮設住宅も多いと聞いていたし、不安と緊張が大きかった。でも、ここでやれてよかった。嬉しかったです」(麗華役・丸山さん)

「お客さんとともにわたし達も震災に負けずに前を向いて歩いていきたいと、あらためて思いました。いい公演でした」(聡美役・斎藤さん)

「2月4日にオーデションをやって1ヶ月で弥生役をやりました。ほんとに私がやっていいのかと不安ばかりでした。でも、見送りの時に「ありがとう」って言ってもらえて、すごく励みになりました。がんばってやります」(弥生役・大崎さん)

「被災していないわたし達が演じていても本当のところはなかなか分かるわけがない。でも、その人達といっしょにやることで『やっていける』って思いました。震災のことを伝えていろいろ考えてもらうという役割を果たせそうで、今回は自信につながりました。熱いものも経験出来たし、これからも福島県民として誇りを持って芝居をやり続けたいと思います」(陽佳役・大竹さん)



「三年生三人は仮設住宅におじゃましてきました。そこで現状を聞くことで、今日の芝居は前よりもっと深くできた気がします。被災者の前でやるのはプレッシャーがあったけど、見送りの時に『気持ちを伝えられたんだな』って、ありがたかったです。思いを伝えてそれをシェアすることで、成長していくことができる。わたし達にとってもいい経験でした。大人への階段をちょっとだけ登った公演でした」(絵里役・増井さん)







本当に大沼高校のみなさん、ありがとうございました。
ウシトラのおじさんたちも、この半年の間にこんなに成長したみなさんに再会出来て、ほんとうれしかったです。
4月4日相馬市、4月6日東京の公演、頑張ってください。








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